解決志向アプローチ
認知行動療法、精神分析療法、家族療法など、心理療法(カウンセリングの進め方の種類)は数多くあります。
従来のカウンセリングでは、問題に焦点を当て、過去を振り返ったり自分の感情を整理したりする中で自分自身を知り、解決の糸口を探る、「問題志向」の方法が多くありました。
その中で生まれた、「原因を探って解決する」のではなく、「解決の構築に焦点を当てる」アプローチが、解決志向アプローチと呼ばれます。
解決の構築
解決の構築ってなんだろう、と思われるかもしれません。
解決志向アプローチを作ったド・シェーザーの言葉に、「人は問題を解決する技法を持っている。その能力と解決のためのリソース(資源)を引き出すサポートをすれば問題は解決する」というものがあります。
簡単に表現すると、「原因を特定しても解決に繋がらないことが多い。それより、『どうしていきたいか?そのためにどんなことなら出来そうか?』を考えた方が、良い変化があるはず」という考え方が根底にあると言えます。
特徴的な技法
解決志向アプローチには、いくつか特徴的な質問をすることがあります。
カウンセリングの中だけではなく、行き詰った時や悩んだ時に自分自身で問いかけてみることもできますので、ご紹介したいとおもいます。
例外探し
何か問題が起こっている時、悩んでいる時はどうしても問題にばかり目が行きがちです。
例えば、「友人やパートナーといつも喧嘩になってしまう」という時、「どのくらいの頻度で喧嘩が起こりますか?」と聞くと、「毎週のように」「2〜3日に1度」のような答えが返ってきます。
「ほとんど毎日」という場合でさえ、「喧嘩しないで済んだ日」がどこかに1日は存在していることがわかります。
しかし、悩みの渦中にいると「『いつも』喧嘩になる」と、365日毎日喧嘩をしているわけではなくとも「いつも」と一括りに表現したくなることがよくあります。
「喧嘩をする」ことを問題とした場合、この「喧嘩をしないで済んだ日」が問題が起こっていない時=『例外』と言えます。
問題が起こっていない、例外の場面はどこだろう?という視点で生活を振り返り、さらに「なぜその時は問題が起こらずに済んだのだろう?」と探っていきます。
問題の原因を探す代わりに、例外(問題が起こっていない状態)をなぜ起こすことができたのか?を探ることを「例外探し」と呼びます。
スケーリング・クエスチョン
「今の苦しさ(不安や辛さ等、悩みに合わせて)は、一番最悪の時を0、問題が解決したと思える状態を10とすると、今はいくつだろう?」と問いかける質問です。
一度数字に置き換える作業をすることで、落ち着いて自分の状態を少し客観的に捉えるきっかけにもなります。
また、「8」や「9」と答えたとすると、「どうやって最悪の状態の10から1〜2下げることができたのだろう?」と更に考えることができます。
自分ではどうしようもない、と途方に暮れていた状況でも、実は最悪ではない理由を探すことで、「自分には対処していく力がある」
と見方を変える手助けになります。
コーピング・クエスチョン
先ほどのスケーリング・クエスチョンで、「今が一番最悪の10」と答えたくなることも勿論あると思います。
その時に考えたいのが、コーピング・クエスチョンです。
「こんな大変な状況の中で、どうやって今までやってこられたんだろう?」「辛い状況だけれど、投げ出さずにやってこられたのはなぜだろう?」というような質問が、コーピング・クエスチョンです。
問題に悩み、心身ともに疲れている時は、自分自身のできないところや失敗に注目してしまう傾向があります。
どうやって乗り越えてきたのか?乗り越えたとは言えなくとも、なんとか今日までやってきたのか?という質問を通して、今まで注目していなかった自分自身の力や強さに光を当てることで、問題に対処する元気を取り戻すような効果が期待できます。また、今までのうまくいった対処を振り返ることで、今回の問題に応用できるものが発見される可能性も高いのです。
ミラクル・クエスチョン
ミラクル・クエスチョンは他の質問と比べても少し変わっていると言われることが多く、解決志向アプローチの特徴的な質問です。
「今夜寝ている間に奇跡が起こって、あなたの問題がすべて解決したとします。その場合、あなたはその奇跡がおこったことをどんなことから気づきますか?」というような質問です。
一見ファンタジーのような、非現実的な質問を投げかけることで、「解決した後の状況を具体的にイメージする」ことを目的としています。
この質問について考えてみることで、「自分の理想のイメージや解決後の状況を具体的にする」「理想の状態と今の状態の違いを明確にする」ことのきっかけとなります。
理想とする状態、解決後の状態をできるだけ具体的にイメージすることで、今と何が違ったら自分が「こうなったらいいな」と思える状態に近づくのか、そのために何をすればいいのか?を考えていくステップを踏みやすくなります。
最後に
問題に焦点を当て、過去の出来事を考え続けることは大切な気づきや自己理解に繋がる可能性がある一方で、人によっては大変辛く、エネルギーが必要な取り組みです。
「過去と他人は変えられないけれど、未来と自分は変えられる」というのは、精神科医エリック・バーンの有名な名言です。
変えられる可能性がある「未来」をどうしていくか、解決志向アプローチは未来志向の心理療法ということができます。
じっくりと過去を振り返って時間をかけて考えたり、整理をしたりしたい場合もあれば、過去を思い出すのは辛い、今は掘り起こしたくないという場合もあるのではないでしょうか。
問題解決や、より幸せに生きていくために、カウンセリングの方法も自分に合ったものを選んでいただけるような説明や提案があることを大切にしていきたいと思います。