愛着障害とは、一般的に特定の養育者(保護者など)との愛着がうまく形成されず、情緒や対人関係の面で生きづらさが生じる状態のことをいいます。
DSM-5の診断名としては、「反応性アタッチメント障害」と、「脱抑制型対人交流障害」の2つに大きく分類されています。
どちらとも、「心的外傷およびストレス因関連障害群」というグループに分類されている疾患です。
愛着(アタッチメント)とは
赤ちゃんや幼い子どもが、危機的な状況や危険が予測されるような状況におかれたときに、養育者などの特定の他者(アタッチメント対象)に近づいて行ったり、ピタッと寄り添って離れないようにしようとする、生得的な傾向であるとされます。
危機的な状況で感じる「不安」や「恐怖」などのネガティブな感情を、アタッチメント対象との接触・近接によってニュートラルな状態に戻す効果があると考えられています。
広義には、そのようなアタッチメント対象に近づき、恐怖や不安を軽減させる情動調整を繰り返すことで形成される、二者間の情緒的な結びつきを指すこともあります。
怖い思いをしたけれど、アタッチメント対象(親など)の方に走って行って抱っこしてもらい、安心した。
そのような経験を繰り返すことで、子どもは徐々に「他者への信頼感」などを持てる土台を作っていきます。幼いときは、撫でられる、抱っこされる等の物理的接触によって安心感が回復していき、大きくなるにつれて頭の中にあるイメージを安心感の拠り所にできるようになると言われています。
アタッチメントは幼少期に限らず、幼少期までに特定のアタッチメント対象との関係を経て形成されたものを「内的作業モデル」と呼び、成長してからも対人関係に反映されると考えられています。
愛着(アタッチメント)のパターン
幼少期のアタッチメント対象とのやり取りを経て形作られるパターンは、研究から以下の4つに分類されています。
このパターンを調べるためによく用いられる方法が「新奇場面法」と呼ばれるものと、子どもと母親を一定時間違う部屋に離し、その後母親が子どもがいる部屋に戻った時に、子どもの反応を観察することで愛着のパターンを分類します。
安定型愛着パターン
安定型愛着パターンは、母親が戻ってくると素直に喜びを表現して、駆け寄って行ったり、抱っこを求めたりします。
母親から話された時は不安な様子がみられ、泣くこともあるものの過剰ではなく、一般的な範囲内の反応です。
回避型愛着パターン
回避型愛着パターンは、母親と離されてもほぼ無反応で泣いたり不安がったりせず、再開時も、母親と目を合わせなかったり、自分から近づいていかないのが特徴です。
ストレスや不安を感じても、近づいて接触を求めるような愛着行動を起こさないタイプということができます。
幼少期に愛着形成がうまくいきづらい環境で育った場合によく見られると言われています。
回避型愛着パターンの子どもは、成長するにつれて反抗的な態度をとったり攻撃性が現れることが多いです。
アンビバレント型愛着パターン
アンビバレントとは「二律背反」という意味で、母親から離されると強い不安を示し、激しく泣いたりする一方で、母親と再開すると抱っこを拒んだり抵抗離れようとしたりします。
しかし、一度くっつくと今度はなかなか離れようとしないなど、愛着行動が過剰に引き起こされる愛着パターンです。
親の子どもへの関心にムラがあったり(気分次第でかかわったり、放任したり)、過干渉な親の場合にこのような愛着パターンを示すことが多いとされています。
無秩序型愛着パターン
無秩序型愛着パターンは、回避型とアンビバレント型の両方の特徴が見られるような、一貫性のない行動パターンが特徴とされます。
母親と再開しても全くの無反応だったり、激しく泣いたり暴れたりします。
虐待を受けていたり、親が精神的に不安定な状態である場合に見られやすい愛着パターンと言われています。
愛着障害
相手から極端に距離をとろうとする「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」と、誰に対しても距離感が近い「脱抑制型対人交流障害」の大きく2種類に分類されます。
「心的外傷およびストレス因関連障害群」に含まれる一疾患です。
それぞれ、DSM-5では以下のように定義されています。
反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)
A.以下の両方によって明らかにされる、大人の養育者に対する抑制され情動的に引きこもった行動の一貫した様式:
(1)苦痛なときでも、子どもはめったに、または最小限にしか安楽を求めない。
(2)苦痛なときでも、子どもはめったに、または最小限にしか安楽に反応しない。
=ストレスを感じた場面でも、保護者や身近な大人に助けを求めない。大人が近づいても、近づいたり接触を求めるような反応をしない。
B.以下のうち少なくとも2つによって特徴づけられる持続的な対人交流と情動の障害
(1)他者に対する最小限の対人交流と情動の反応
(2)制限された陽性の感情(=ポジティブな感情を抱いたり、表現したりしづらい)
(3)大人の養育者との威嚇的でない交流の間でも、説明できない明らかないらだたしさ、悲しみ、または恐怖のエピソードがある。
(=理由なくイライラしたり、悲しさ・恐怖・怒り等のネガティブな感情を感じる)
C.その子どもは以下のうち少なくとも1つによって示される十分な養育の極端な様式を経験している。
(1)安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
(2)安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
(3)選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)
D.基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた適切な養育の欠落に続いて始まった)。
E.自閉スペクトラム症の診断基準を満たさない。
F.その障害は5歳以前に明らかである。
G.子どもは少なくとも9か月の発達年齢である。
脱抑制型対人交流障害
A.以下のうち少なくとも2つによって示される、見慣れない大人に積極的に近づき交流する子どもの行動様式:
(1)見慣れない大人に近づき交流することへのためらいの減少または欠如(=知らない大人にも声をかけたり、ついて行ってしまったりする)
(2)過度になれなれしい言語的または身体的行動(文化的に認められた、年齢相応の社会的規範を逸脱している)
(3)たとえ不慣れな状況であっても、遠くに離れていった後に大人の養育者を振り返って確認することの減少または欠如
(4)ほとんど何のためらいもなく、見慣れない大人に進んでついて行こうとする
B.基準Aにあげた行動は注意欠如・多動症(ADHD)で認められるような衝動性には限定されず、社会的な脱抑制行動を含む。(=ただ落ち着きがない・衝動的というだけではない)
C.その子どもは以下の少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。
(1)安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪。
(2)安定したアタッチメント形式の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
(3)選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)
D.基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた病理の原因となる養育に続いて始まった)。
E.その子どもは少なくとも9か月の発達年齢である。