イエス・セットとイヤイヤ期

イヤイヤ期

イヤイヤ期とは、成長に伴って自我が芽生え、言葉の発達とともに自己主張が強くなり「イヤ」と繰り返すことが多くなる1歳後半から3歳ごろまでの時期のことを指して言われます。

この時期の子どもは親からの声掛けに対して何度も「イヤ」と返事をしたり、今まではスムーズに行動してくれたタイミングでも拒否してしまうことが増えたりするため、「魔の2歳児」や、「第一次反抗期」と呼ばれることもあります。

何度も粘り強く声掛けをしていても、繰り返し繰り返し「いや」と言われたり、泣かれたりしてしまうと、親としても心の余裕がなくなってしまったり、つい声を荒げてしまったりと頭を悩ませることの多い時期かもしれません。

そのようなイヤイヤ期の子どもへの対応として、カウンセリングのスキルをうまく活用していただけると、負のループから抜け出すきっかけになるのではないかと思います。

イエス・セットとスモールステップ

「着替えない!」

「保育園行きたくない!」

「お風呂入りたくない!」

「ごはん食べない!」

毎回のように繰り返される「いや」ですが、「保育園」の例を考えてみましょう。

「保育園行くよ!」はもしかしたら高すぎる目標になっているかもしれません。

『絵本1冊読む?』

「うん」

『これを読み終わったら保育園に行くよ』

「うん」

~読み終わって~

『おしまい。じゃあお出かけしよう』

「いや!」

さすがに魔の2歳児、一筋縄ではいきません。

「おでかけ」「保育園」はまだハードルが高いようです。

『おもちゃのお片付けできる?』

「できない」

『お母さんと一緒にお片付けできる?(ハードルを1つ下げる)』

「・・・うん」

『(おもちゃを1つ持って)これはどこに入れる?』

「ここー!」

『じゃあ○○を片付けてね』

「うん」

~片付けが終わって~

『片付け上手にできたね!』

「うん」

『じゃあ階段を降ります』

「(階段を降りて玄関へ行く)」

この後は、ゴールを【保育園へ行く】として、ひたすらスモール・ステップの声掛けをして達成させていきます。

例えば、『連れていきたいおもちゃを選ぶ』『靴下を選ぶ』『靴を履く』『部屋の電気を消す』『鍵を開ける』『鍵を閉める』・・・・・・

ここまで行くと、部屋を移動したり、1つ1つの行動を達成し、褒められる流れを通して気持ちが切り替わっていることも多いです。

また、電気のスイッチのオンオフや、玄関の鍵の開け閉めなどの作業は進んでやりたがるお子さんも多いことでしょう。

そして、「子どもが『うん(YES)』で答えられる質問をしてあげること」「YESで答えられる質問を続けること」が、イエス・セットと言われる方法です。

子どもに限らず、会話の初めにイエス・セットを作ることで、その後の会話がスムーズに進むと言われています。

また、質問に対して何回か「イエス」を積み重ねることで、最終的な質問や提案に同意を得やすくなる傾向があるため、交渉や営業などのコミュニケーションでも良く活用されています。

コンプリメント

スモール・ステップの目標作りと、イエス・セットの声掛けについてお話ししました。

そして、忘れてはいけないのが「コンプリメント=褒める・認める」の声掛けです。

おもちゃを1つでも自分でもって片付けた時、玄関に向かう階段を1段降りられた時、とても小さな目標であっても、達成できた時は「できたね」と認める声掛けをしてみてください。

「ありがとう」「助かる!」とお礼の言葉を伝えるのでも、十分に「褒められた」「認められた」という体験になります。

イヤイヤ期の子どもとやりとりをしていると、どうしても大人の側も余裕をなくしてしまうことがあると思います。

大人がイライラしながら対応すると、余計に子どものイヤイヤが長引いたり……。

人間のイライラや不安などの神経の状態は、近くにいる人に伝わっていると言われています。

イライラしているなと自覚ができた時は、一呼吸置いたり、一旦離れたり、お茶を一口飲んだり、仕切り直しをする習慣をつけると良いかもしれません。

イヤイヤ期の発達段階

さて、イヤイヤ期とは具体的に何歳を指すのかというと、明確に決まっているわけではありません。

「2歳前後」とする意見が多く、早いお子さんで1歳半くらいからそのような状態が現れるようです。

心理学的にこの「イヤイヤ期」がどんな時期なのかを考えると、ちょうど「前操作期」の入り口のあたりということができます。

ピアジェの「前操作期」

「前操作期」とは、ピアジェの「認知発達理論」の4つの発達段階の1つ、2〜7歳の子どもたちの発達段階を指します。

「前操作期」は、言語機能・運動機能がともにぐんぐん伸びる時期で、物事を区別して認識できるようになっていくのが特徴です。

自分の中でイメージを持てるようになるので、想像力を働かせた「ごっこ遊び」や、ブロックを車に見立てて遊ぶ「見立て遊び」が増えてくる時期でもあります。

この時期の特徴として「自己中心性」があると言われており、想像力が備わってきてはいるけれども、まだ相手の立場に立った理解、共感は難しい時期になります。

そのため、「言葉でのやりとりがだいぶできるようになったけれど、まだ相手の都合に合わせて動くことは難しい」「言葉が出てきたので、今までより自己主張はできる」という状態が普通であり、これが一般的にイヤイヤ期と呼ばれています。

これからの発達に伴い、相手の立場や気持ちを想像したり、論理的に考えられるようになったりするうちに「イヤイヤ期」は収まっていきますので、「今だけ、今だけ」と余裕を持つ工夫もしていきたいものです。