社会的参照とは
赤ちゃんや小さい子どもの行動を見ていると、何か新しい物が目の前にあるとき、チラッと保護者を振り返って顔をじっとみる行動をすることが良くあります。
これは、自分で判断できないことについて、「安全かどうか」を保護者の反応から知ろうとしている行動と言われています。
この「保護者の方を見て行動を決める」ことは社会的参照と呼ばれていて、生後9ヶ月〜1歳頃には既にそのような行動が現れることが知られています。
まだ言葉も話さない赤ちゃんの頃から、周囲をよく見て色々な情報を汲み取っていると思うとすごいことですね。
視覚的断崖実験
社会的参照を証明する実験として有名なものが、ギブソンらの視覚的断崖実験と呼ばれる実験です。
実験では、赤ちゃんが上に乗ってハイハイできるような透明な台を用意します。透明な台の下には模様のついた床があり、一見進むと下に落ちてしまいそうな「断崖」に見える仕組みです。
元々は「赤ちゃんはいつから奥行きを知覚するのかな?」ということを調べるための実験ですが、その中で興味深いことが起こります。
6ヶ月くらいの赤ちゃんは、透明な台の手前までくると止まり、先に進もうとしませんでした。このことから、赤ちゃんは透明の台越しの床を見て「進むと落ちる」とわかった=奥行きに気がついたということがわかりました。
しかし、9ヶ月くらいの赤ちゃんを同じように台の前に置くと、台の向こう側でお母さんがニコニコと笑顔で待っている状況では、安心したように透明の台の上をハイハイしたのです。
同じ台を使用しても、お母さんが険しい顔や怒った顔をしている場合は、赤ちゃんは止まって動かないことも観察されました。
このことから、赤ちゃんは周囲の大人の反応を見て「進んでも良いかどうか」を決めているのではないかということが分かってきたのです。
日常の中での社会的参照
社会的参照とは、子どもの行動に限らず、「周囲の反応を参考にして自分の行動を決定する現象」のことを指します。
例えば、会議で発言して良いかどうか周囲を見渡してタイミングを測ったり、商品を選ぶときに口コミやレビューなどの評価を参考にしたりすることも、社会的参照の1つであるといえます。
社会的参照は、社会の中、人間関係の中で生きる人間にとってとても大切な現象であると言えます。
社会的参照の能力がうまく伸びないことは、自閉症スペクトラムの特徴とも関連すると言われています。
社会的参照に障害や苦手さがある場合、他人の感情を推測して、そこから適切な行動を選ぶことが難しくなります。
そのため、対人関係に問題が生じることがあります。
発達障害や発達に偏りがある場合、早くから「療育」と呼ばれる苦手を伸ばすトレーニングを行うことが大切です。
もしお子さんのこと、ご自身のことで心配がある場合は、カウンセリングや医療機関などの相談機関で専門的な検査を受けたり、対処法のアドバイスをもらうことで安心して関わることや将来の見通しを持つきっかけになることがありますので、ぜひご相談いただければと思います。