メタ認知

カウンセリングの中で、感情のコントロールに関するご相談が出てくることも多くあります。

例えば、

「不安になったときにパニックにならない方法はないですか」

「怒りを相手にぶつけないようにするためにどうしたらよいですか」

「イライラや落ち込みで何にもする気が起きない」

というようなことです。

こうして書き出してみると、カウンセリングや医療機関を利用していない方でも、日常の中で同じように感じたり困ったりした方も多いのではないでしょうか。

メタ認知

メタ認知は「認知についての認知」と言い表されます。

そもそも「メタ」は「高次の」という意味があるため、高次の認知=認知についての認知、という意味になります。

つまり、自分の行う認知活動を、客観的に捉えることを指しており、人間の認知機能の発達を研究する中で使われるようになった言葉です。

客観視や、俯瞰で見る、という言葉が近いかもしれません。

感情的になっている時に、自分自身を「今、私は感情的になっている」と認識することをメタ認知と言い、「自己モニタリングの能力」と言い換えることもできます。

人間は家族や学校、職場といった社会の中で生きているため、状況に合わせた行動をするために、自分の行動をしっかりと認識して調節できるほうがより生きて行きやすいと考えられます。

そのために役立つのが「メタ認知」の力です。

例えば、不安で仕方がない時に

「どうしようどうしよう…」と不安に囚われてしまうと、具体的な対処法や解決策を考える心の余裕がなくなってしまいます。

焦りや不安で頭の中がいっぱいのまま、何かを判断することはとても難しいですし、後から「なんであんなことを言ってしまったんだろう/してしまったんだろう」と後悔することもあると思います。

「決断する」というのは重要なことであり、それだけ脳にとって負担が高いことでもあると言われています。

一般的に、「うつ病の症状が強く出ている時は重要な判断(転職や引越しなど)は控えた方がよい」と言われることからも、冷静に状況を捉えて考える余力がない時の判断はリスクが大きいことがわかります。

「どうしよう、どうしよう」と焦り・不安でいっぱいの状態から、この「冷静に状況を捉えて考える余力がある状態」を作ることが不安への対処法、より大きく言うと感情のコントロールのために重要だと言えます。

そのための一歩として、メタ認知をうまく活用することができると、感情を俯瞰で眺めて少し冷静になることができます。

たとえば、「今、私は不安を感じている」とあえて言葉にすることも有効です。

「どうしよう、どうしよう」→「今、私は不安を感じている」

「何かイライラする…」→「私は怒りを感じているようだ」

このように、言葉にできないモヤモヤを言語化することは、感情に振り回されず客観的に自分を見つめることの一歩になります。

言葉にならないモヤモヤやイライラ、鬱々とした気持ちを、少しずつ振り返りながら言葉にできるよう取り組んでいくことはカウンセリングの1つの役割でもあります。

言葉の不思議

「私は不安症だ」「イライラする」という表現はよく使われますが、言葉だけ見てみると無意識に「私=不安」「私=イライラ」というような表現になっています。

「私は不安を感じている」「私は怒りを感じている」とすると、どうでしょうか?

言葉の使い方の小さな違いですが、「私は不安だ」を「私は今、不安を感じている」と言い換えるだけでも大きな変化が起こることがあります。

「私は不安だ」で、「私=不安」と私と不安が一体になってしまっているのに対して、

「私は今、不安を感じている」と言うと「私」と「不安」は別々のものと分けて捉える事ができます。

当たり前のように感じられるかもしれませんが、悩みの渦中にいると「私は不安だ」「私は〇〇病だ」と自分自身を決めつけてしまう言葉を知らず知らずのうちに使ってしまうことは多くあります。

このくっついてしまった「私」と「不安」を切り離す方法は、心理療法の中では「外在化」とも呼ばれます。

(しかも、「今」を付け加えることで、その不安は一時的なものなんだ、という見方も加わります。)

このようなものの見方を身につけておくと、いろいろな悩みに応用できることがわかると思います。

ものの見方や考え方にもクセがあると言われており、今までと違う見方を取り入れるためには意識をして違う見方を試してみることが必要となります。

自分1人ではなかなかクセに引っ張られてしまう時、方法がわからない時は、カウンセリングや医療機関での相談、書籍を参考にする、知人に「あなたならどう思う?」と考え方を聞くなど、他の人の視点を借りるとより柔軟な見方に近付いていくのではないかと思います。