自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害/ASD

タイトルの「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害/ASD」はいわゆる「自閉症」を表すのに使われる診断名であり、同じものを指しています。

「自閉症」という言葉は近年一般的になり、テレビや本などでもよく見られる言葉になったと思います。

その反面、実際はどのような症状で悩むことが多いのかといった具体的なことはよく知られていなかったり、「自閉症、自閉スペクトラム障害、アスペルガー症候群、広汎性発達障害……」とたくさんの名称があり、「結局何を表しているのだろう?」と感じたりすることも多いのではないかと思います。

今回は「自閉スペクトラム症」について、まとめたいと思います。

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害/ASD

自閉スペクトラム症は、以下の①、②両方にあてはまることと、これまでの病歴で判断される神経発達症の1つです。

(神経発達症とは、いわゆる「発達障害」と呼ばれる障害を含む言い方です。)

① 複数の状況でのコミュニケーションと対人的相互反応の持続的な支障(例:言葉の遅れ、字義通りの言語理解、抑揚のない発語、共感性の乏しさ、不適切な表情、アイコンタクトや身振りの異常、模倣遊びやごっこ遊びの少なさ、仲間への無関心)

②行動、興味、活動の限定的・反復的な様式で、次の(a)〜(d)に示される項目の2つ以上に合致すること。

(a)常同的・反復的な発語、動き、物の使用(例:エコラリア、常同的行動、玩具を一列に並べる)

(b)同一性への固執、習慣へのこだわり、儀式的行動(例:道順や規則への固執、変化への拒否、儀式的な挨拶の習慣)

(c)極度に限定された興味(例:一般的でないものへの没頭、一般的なものへの極端な執着)

(d)感覚刺激への過敏さ、鈍感さ、刺激への熱中(例:特定の音や触感への過度な反応、痛みや熱さへの無頓着)

さらに、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、以下の③〜⑤をすべて満たすことで診断されます。

③発達早期(典型的には生後12〜24ヶ月)の発症

④生活上の明確な支障

⑤知的能力障害や全般的発達遅延では説明がつかないこと。

「療育」の必要性

自閉スペクトラム症は、早期に発見し、「療育」という苦手分野のトレーニングを実施することによって、社会生活を送りやすくなることが分かっています。

大人になってからトレーニングするよりも、早期に発見し、トレーニングを開始した方がより効果が高いと言われています。

とはいえ、高校・大学生や、社会人になってから診断がつく方もいらっしゃるかと思います。

その場合は、「苦手分野をなんとか伸ばす」トレーニングよりも、「得意分野で苦手をカバーする」対処方法をトレーニングしていくことが多いです。

障害をお持ちであっても、個々の能力を詳細に見ていくと、誰しも「得意なもの」「不得意なもの」があるため、まずは「自分の得意不得意を把握」して、「必要な対策をとること」

が重要になってきます。

そのため、トレーニングやカウンセリングはお一人お一人にあった方法で進めていく必要があるため、心理検査を実施したり、今までの生活を詳細に伺ったりといった情報収集を通して「見立て」をしっかりと立てた上で実施します。

「スペクトラム」とは?

スペクトラムという言葉自体には、「連続したもの」という意味があります。

「自閉症」の中でも「こだわりが強い人」「感覚過敏が強い人」「常同行動はない人」など、症状の特徴や強さの個人差がとても大きいことから、「自閉スペクトラム症」とすることで「同じ障害でも中身はグラデーションのように変わる」というような意味を持たせています。

「診断名」が多い理由

1つには、診断基準として広く使われているものに、DSMと ICDという2つのマニュアルが存在していて、その2つで呼び方が違うことが理由として挙げられます。

また、時代が変わると「この呼び方は適切ではない」と判断されたり、新たな研究結果が反映されたりするため、「第●版」とバージョンアップしていきます。そのため、過去と今とでは呼び方が変わったものも多くあります。

「自閉スペクトラム症」は、今までよく使用されてきた広汎性発達障害(PDD)の診断基準と重なり合う部分がとても多くなっています。

これまで自閉症、自閉性障害、アスペルガー症候群、カナー型自閉症、高機能自閉症、特定不能の広汎性発達障害などと診断されていた障害を、すべて含んだ診断名が「自閉スペクトラム症」であると言えます。

ただし、広汎性発達障害のうち上記の②(行動、興味、活動の限定的・反復的な様式)が見られない場合、DSM-5では「社会的コミュニケーション症」と診断されます。

自閉スペクトラム症と同時に現れやすい精神疾患として、知的能力障害、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症発達性協調運動症、チック症群、緊張病、抑うつ障害群、不安症群などがあり、自傷行為、てんかん、食行動障害および摂食障害群(特に異食症、回避・制限性食物摂取症)、睡眠ー覚醒障害群なども見られることが多いと言われています。

参考文献:

子安増生・丹野義彦・箱田裕司監修(2021).『有斐閣 現代心理学辞典』.有斐閣.