カウンセリングでは、「自分も相手も尊重するコミュニケーションの方法」として、「アサーション」の理論があります。
アサーション・トレーニング
自分と相手の権利をどちらとも尊重しながら、「適切で建設的な自己主張・自己表現(=アサーション)」ができるスキルを身につけるトレーニングのことを、アサーション・トレーニングと言います。
相手の権利を尊重しつつ、自分の気持ちや考え、意見を適切に主張するための、コミュニケーションのトレーニングです。
今回は、このアサーション(相手も自分も大切にする自己主張・自己表現)を実践するために知っておきたい「アサーション権」について整理したいと思います。
アサーション権
基本的アサーション権とも表現されるもので、「自己表現の権利」ということができます。
アサーションが成り立つためには、大前提として「自分自身の人権」「相手の人権」を大切なものとして認識する必要があります。
アサーションは、「誰もが生まれながらに、アサーションの権利を持っている」ということを認めるところからスタートします。
アサーションに関わる権利は、全体で100以上の種類にのぼると言われていますが、ここでは代表的な5つのアサーション権についてご紹介します。
- 1.人はみな、誰からも尊重され、大切にしてもらう権利がある。
- 2.人はみな、自分の行動を決め、それを表現し、その結果について責任をもつ権利がある。
- 3.人はみな、過ちを犯すことがあり、それに責任を持つ権利がある。
- 4.人はみな、支払ったものに見合ったものを得る権利がある。
- 5.人はみな、自己主張をしない権利もある。
1.人はみな、誰からも尊重され、大切にしてもらう権利がある。
人は誰しも「人間としての尊厳」をもっており、それは他の誰からも侵害されてはならないものです。つまり、自分の欲求も、相手の欲求も、同じくらい大切なものと考えられます。
2.人はみな、自分の行動を決め、それを表現し、その結果について責任をもつ権利がある。
相手の期待に応えるかどうかなど、人は自分で考えて、どうするかを決めて良いと考えます。そして、その結果の責任は自分で引き受けます。
3.人はみな、過ちを犯すことがあり、それに責任を持つ権利がある。
一度も失敗しない人、過ちを犯さない人は誰もいないでしょう。もし間違えてしまったら、その責任をとる権利があり、間違ったことに対して償いをすることが大切です。償いとは、主体的に謝ったり、訂正したりして責任をとろうとする行動のことを指しています。
4.人はみな、支払ったものに見合ったものを得る権利がある。
要求することに「あつかましいのではないか」等罪悪感を感じる場合もありますが、相手を尊重しながら自分自身の要求を伝えることは悪いことではないと考えます。
5.人はみな、自己主張をしない権利もある。
自己表現や自己主張は「しなければならないもの」ではなく、「自己主張する権利」があると同時に、「自己主張しないことを選ぶ権利」もあります。また、自己主張しないことを選んだ結果も、自分の責任として引き受けます。
最後に
自己表現をする、つまり自分の気持ちや考えを相手に伝えるためには、まず「自分自身の気持ちや考えをしっかりと把握する」ことができている必要があります。
カウンセリングでは、自己理解を深めたり、アサーションのような考え方・スキルを身に着けるお手伝いをさせていただいています。
コミュニケーションは伝える側だけではなく、受け取る側の人の存在もあるため、「自分としてはアサーションの考え方で伝えたつもりだったけれど、相手には受け取ってもらえなかった」ということもあるでしょう。
そのような場合でも、「残念な気持ち」を表現することや、「自己主張をしない権利」を使うことを私たちは選択することができます。
1人でも多くの人がアサーションの知識を持つようになれば、今存在している対人関係の悩みや不安の多くが和らいでいくのではないかと思います。