家族療法

カウンセリングの方法にはいくつもの種類があります。

その中の1つで、「家族」を対象とする方法を「家族療法」と呼びます。

「家族を対象にする=面接に本人だけはなく家族のメンバーも来ることがある」ということ以外に、家族療法の特徴として、以下のような要素が挙げられます。

①犯人探しをしない

②家族のリソースを引き出す

③家族をシステムとしてとらえる

④円環的因果律で考える

⑤本人が来なくても、家族を援助することで支援ができる

①犯人探しをしない

私たちは何か問題が起こると、「何が悪かったんだろう?」「どうしてこうなってしまったのだろう?」と原因を探す思考が働きます。

犯人探しとは、この原因探しのことを言います。

犯人探しを始めるとたくさんの理由や原因と考えられる物事・人がどんどん出てきますが、難しいのは「原因が分かったら悩み事がなくなる」ということはとても稀だということです。

反対に、うまくいかない理由を探すことで、より悪い面に目が向きやすくなったり、家族のうち誰かの自信や、問題に取り組むためのエネルギーまで損なわれてしまうことも多くあります。

一般的なカウンセリングでは、問題行動を起こしていたり、困っていたりする本人を「クライエント」と呼びますが、家族療法では、家族の中で問題を抱えている本人のことを、「IP(アイピー)」と呼びます。

これは、「Identified Patient(患者とみなされる人)」の略称です。

なぜ呼び方が違うのかというと、家族療法ではあくまでクライエントは「家族」であり、家族の中の誰かが抱えている心の問題は、「家族システムが機能不全を起こしているサイン」と捉えるためです。

この「IP」という呼び方にも、「犯人探しをしない」姿勢が現れています。

犯人探しをしない、というのは、家族の中の誰か1人を「問題の人」として扱わないという意味もありますが、「家族全員を責めない姿勢」ということもとても大切にしています。

家族とカウンセラーは「協力して問題解決をする仲間」として話し合いを進めていきます。

②家族のリソースを引き出す

家族全体を対象としていて、犯人探しをせずに家族のリソース(=強み)を積極的に見つけ出し、活用できるように援助をするため、カウンセリング終了後も良い状態が続きやすいという特徴があります。

家族全体が良い状態になることで、「家族の中で問題解決をする」ということがしやすくなるため、専門家のサポートがない状態でも家族で問題に対処できることが多くなります。

③家族をシステムとしてとらえる

家族を1つのシステムとしてとらえ、そのシステムがうまく機能していない(機能不全)状態を、よりよく機能できるようにメンテナンスすることを目的として介入します。

家族システムとは、簡単に言うと、家族のメンバーそれぞれがお互いに影響しあいながら成り立っているというものの見方です。

また、システムには「いつもの状態を維持する力」が働くと言われており、家族に急な変化が起ころうとすると、元に戻ろうとする働きがあると言われています。そのため、良い変化であっても、それを続けるためには工夫が必要ということができるかもしれません。

カウンセラーはこの家族のシステムに、家族の価値観や考え方を尊重しながらお邪魔し、家族のリソースを一緒に探しながら、自然な良い変化を起こせるように援助をおこないます。

④円環的因果律で考える

「犯人探しをしない」ことと深く関係しているのが、この円循環的因果律です。

円環的的因果律と対照的なのが、直線的因果律です。

例えば「朝起きられない子ども」という出来事があったときに、この2つの考え方をしてみると、以下のようになります。

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直線的因果律

スマホでSNS⇒夜更かし⇒朝起きられない

円環的因果律

スマホでSNS⇒夜更かし⇒朝起きられない⇒母が子を怒る⇒朝から母子で喧嘩⇒父が母子に対し「うるさい」と怒る⇒夫婦喧嘩⇒子は部屋にこもる⇒スマホでSNS(最初に戻る)

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直線的因果律で考えた場合、AだからBが起こった、Bが起こったからCになった、と一方通行の原因⇒結果が見えてきます。

これに対して、円循環的因果律では「犯人はいない」「解決努力が問題を維持している」という見方をしていきます。

「解決努力が問題を維持している」というのは、例えば「朝、遅刻しないように子どもを起こそうとする母の努力」や、「朝から家族の雰囲気を良くしたいがために母子の喧嘩を止めようとする父の努力」、または「SNSで友人とコミュニケーションをとったり、家庭の愚痴を話してストレス対処をする子どもの努力」かもしれません。

それぞれが解決のために「良かれと思って」やっていることが、結果として問題を維持してしまっている、ということになります。

⑤本人が来なくても、家族を援助することで支援ができる

①~④の内容の通り、家族をシステムとしてとらえる視点や、犯人探しをせず全体が影響しあっていることを前提とした円環的な捉え方を前提としているため、「本人が来ない」状況や、「全員はいないけれど、相談したいと思った人だけがカウンセリングを受けに来られた」状況でも、家族みんなでよくなることを目標としたお手伝いが可能です。

困りごとの内容によっては、最初から本人が相談に来ることが難しい場合も多くあります。

まずは相談しようと思った人や、困り感が強い人が相談につながることで、本人へのアプローチの方法がわかったり、少し行動を変えてみることで家族全体に良い変化が起こることも非常に多いです。

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1人でお話ししたい時、家族みんなで相談したいとき、いろいろな形態でのカウンセリングやサポートを、希望に応じて選べることが大切だと思います。

家族療法、というカウンセリングの形もあることを知っていただけると嬉しいです。