喪の作業
自分にとって身近な人や大切な人を失うことで、深い悲しみを感じたり、ひどく落ち込んだりすることは自然な感情です。
その落ち込みや悲しみ、心の整理をしながら前へ進むまでの気持ちの揺れ動きのことを「喪の作業」と呼ぶことがあります。
喪(も)の作業は「悲哀の仕事」ともよばれ、自分にとって大切な人を失ったときに感じる感情の体験と、その経過のことを指します。
精神分析の創始者、フロイトが提唱した概念で、愛着や依存の対象となるものを失う「対象喪失」によって生じる心理的過程のことを表した言葉です。
具体的にどのような過程を辿るのかについてはいくつかの理論がありますが、ここではボウルビィの4段階の心理過程をご紹介しながら、「喪の作業」の心の動きを追っていきたいと思います。
喪の作業の4段階(ボウルビィ)
- 1.無感覚の段階
- 2.思慕と探求・怒りと否認の段階
- 3.断念・絶望の段階
- 4.離脱・再建の段階
第1段階: 無感覚の段階
大切な人を失った直後、1週間程度続く無感覚の段階。
大きなショックに茫然としているような状態で、悲しいというよりは感覚が麻痺しているような状態といえる。
現実として受け止めることが難しく、「夢の中の出来事」のように感じられることもある。
第2段階: 思慕と探求・怒りと否認の段階
喪失を事実として受け止め始めるが、十分には認めることができない中間の段階。
事実を受け止め始める一方で、失った人への強い思慕の情に悩まされ、悲しみをより強く感じ始める。
「故人がまだ生きている」という感覚もあり、ふとした時に探し求めたり、実際にいるかのように行動したりすることもある。
第3段階: 断念・絶望の段階
喪失の現実を受け入れれ、諦めの感情(断念)が現れる。
それまでの心のあり方や、生活の仕方が全て崩れてしまったような感覚が、絶望感や強い落ち込み(抑うつ状態)へつながることがある。
第4段階: 離脱・再建の段階
故人を思い起こす時、悲しみや喪失感だけではなく肯定的な記憶や穏やかな思い出を思い出すことができるようになっていく段階。
新しい人間関係や環境の中で、気持ちを徐々に立て直したり、それぞれの社会的役割(仕事や学校など)を再建していく試みが始まる段階。
最後に
コロナ禍で十分なお別れができなかったような場合、「喪の作業」がより複雑で難しくなる場合もあるのではないかと指摘されています。
「あいまいな喪失」という言葉があり、十分に故人と別れの時間が持てない事情があるような場合、第2段階にある「喪失を事実として受け止め始める」段階が進みづらいこともあるのではないでしょうか。
事実を受け止める、と言葉で言っても、実際にその立場に置かれた時にすんなりそうできる人は少ないのではないかと思います。
感情がついていかなかったり、頭では分かっていても何となくしっくりこない、現実感がないような状態であったりすることは十分あり得ることです。
カウンセリングでは、この「喪の作業」が十分にできるように、安心・安全を感じられる場所や関係性の中で今感じている思いや、過去に体験した出来事を言葉にするサポートをさせていただいています。
1人では思い返すのも辛い出来事や、なかなか受け入れられない出来事について、「言語化する」ということも気持ちの整理をする上で有効な方法です。
「風邪の時に病院にかかる」ように、自分では抱えきれないこと、誰かに聞いてほしいけれど話しづらいことがあった時に、「カウンセリングに行ってみよう」と気軽に思っていただける場所でありたいと考えています。